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最高裁判所第一小法廷 平成6年(行ツ)16号 判決 1995年6月29日

上告人

児玉睿子

児玉博隆

児玉守弘

児玉雅世

児玉弘美

野中由美子

児玉義昭

右七名訴訟代理人弁護士

横井治夫

被上告人

玉川税務署長

中野稔

右指定代理人

海老原明

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人横井治夫の上告理由第一の一について

所論の証人尋問調書が民事訴訟において書証としての証拠能力を有するとした原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官遠藤光男 裁判官小野幹雄 裁判官三好達 裁判官高橋久子)

上告代理人横井治夫の上告理由

《目次》

(前書き)

第一、ロッキード社関係

一、法令の違背―法令解釈適用の誤りについて

二、理由不備―判断の遺脱、経験則違反、採証法則の誤りなどについて

1、「資金の動きを裏付ける客観的な証拠がない」ことについて

2、「児玉の自認額を超える金額についての支払原因はない」ことについて

3、「合理的に説明ができない特異な支払」について

4、「児玉領収書は児玉側が作成したものではない」ことについて

三、まとめ

第二、国内関係

一、北星海運株式の譲渡について

1、買受代金の調達に関する理由の「くい違い」について

2、買受代金の一部、八〇〇万円の拠出に関する理由不備―経験則違反、採証法則の誤りなどについて

二、アタカン株式の譲渡に関連する収入金額について

1、謝礼の「上乗せ」に関する理由不備―経験則違反、採証法則の誤りなどについて

2、株式の売買価額に関する理由不備―経験則違反、採証法則の誤りなどについて

第三、結論

本件は、いわゆるロッキード事件児玉ルートに関連して行なわれた課税処分の取消請求事案である。その課税処分は、被上告人玉川税務署長が上告人らの被承継人である亡児玉誉士夫(児玉)(以下、同様に( )書きを略称とする。)に対して行なった所得税更正処分等である。そのなかには、児玉のロッキード・エアクラフト・コーポレイション(ロッキード社)からの収入と国内関係の収入とが含まれている。そこで、以下、ロッキード社関係と国内関係に分けて、それぞれの上告理由を明らかにする。

第一、ロッキード社関係

被上告人は、児玉に対し、昭和四六年から昭和五〇年までの五年間にロッキード社から合計一八億円余りの収入があったとして追徴課税処分をした。その内訳は、年間五〇〇〇万円程の定額報酬(顧問料)合計二億円余りとロッキード社の全日本空輸株式会社(全日空)に対するL―一〇一一型航空機(トライスター)売り込みの成功報酬(手数料)など合計約一六億円とされている。これに対し、児玉は、二億円余りの顧問料を受領したことを認め、残りの約一六億円の手数料などの受領は否認して、それに対応する課税処分等の取消しを請求し、児玉の死亡後、上告人らが承継したのが本件である。従って、本件の争点は、児玉に約一六億円の手数料などが実際に支払われたのか、どうか、その支払事実の有無に帰するのである。なお、ロッキード社からの児玉に対する支払は、原則として、同社の社長であったアーチボルト・カール・コーチャン(コーチャン)の指示に基づき東京駐在責任者であったジョン・ウイリアム・クラッター(クラッター)がジャパン・パブリック・リレーションズ株式会社(J・P・R社)の社長であった福田太郎(福田)の立会・通訳のもとで行なったとされている。

原判決は、約一六億円の手数料などの受領を否認した上告人らの主張を排斥し、児玉が、その全額を受領した、と認定している。しかし、以下に述べるとおり、原判決には、法令の解釈適用を誤った法令の違背と判断の遺脱、経験則違反ひいては理由不備、採証法則の誤りなどの違法がある。そして、これらの違法は、いずれも原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。よって、原判決は、到底、破棄を免れ得ない。以下に、順次、その理由を明らかにする。

一、法令の違背―法令解釈適用の誤りについて

コーチャン、クラッター両名の証言調書の証拠能力を認めた原判決(630、631頁)は、次に述べるとおり、民事訴訟法の解釈を誤って適用したもので、その誤りは判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

コーチャン、クラッターの両名に対する証人尋問手続は、我が国検察官の請求に基づく裁判官の米国管轄司法機関宛の嘱託により「当事者及び代理人の立会を禁止した非公開の手続」として米国内で実施されたもので当事者らの反対尋問の機会は当初から全く与えられていない。右の嘱託は、第一回公判期日前の証人尋問手続に関する刑事訴訟法二二六条(具体的手続は同法二二八条二項)に基づいて行なわれているが(甲一号証の二、三)、それらの条項は密行性を特色とする「捜査」という面からの特別な例外規定として設けられたものであることはいうまでもない。一方、そのような特殊な手続を含んでいない民事訴訟法においては「証人尋問に際し反対尋問の機会を与えることとしている同法二九四条一項の例外規定は一切、存在していないことは当然である。そして、外国における証拠調べの嘱託手続においても「証拠調べの実施、期日、場所」は、当事者が通知を求めない意志を表明している場合を除き、その他の場合は必らず当事者に通知しなければならない、とされている(「民事訴訟手続に関する条約等による文書の送達、証拠調べおよび執行認許の請求の嘱託ならびに訴訟上の救助請求書の送付について《昭和四五年七月二七日最高裁民二第六五八号高裁長官・地裁および家裁所長あて事務総長通達》添付の別紙第七様式《相手国の権限を有する当局宛「証拠調べ嘱託書」》及び第八様式《相手国在駐日本国領事宛同嘱託書》参照)。つまり、当事者が反対尋問権を放棄している場合を除いて必らず反対尋問の機械を与えなければならない、とされているのである。従って、「当事者及び代理人の立会を禁止した非公開の手続」として当事者に反対尋問の機会を当初から全く与えていないコーチャンらに対する証人尋問手続は民事訴訟法上、違法な手続であることは疑いをいれる余地はない。このような違法手続によって得られた証言が無効であることは民事訴訟法二六四条二項の趣旨からしても明らかであって、本件における証拠資料となし得ないものであるから、それらの証言を録取した証言調書は本件における証拠方法として利用できないものであることは多言するまでもない。

このような原審(第二審)における上告人らの主張(原審における上告人らの準備書面(一)《二―(一)と略称、以下、同じ。》163、164頁等)に対し、原判決は「コーチャンらに対する証人尋問は我が国民事訴訟法に基づいて行われた手続ではないから、同法二六四条、二九四条等の適用がないのは当然であり、このような手続における証人尋問調書も書証としての証拠能力を有することは一審判決の判示するとおりである」として上告人らの主張を排斥している。しかし、次に指摘するとおり、これは、上告人らの主張を「とり違える」などしたもので明らかに民事訴訟法の解釈適用を誤っている、と言うほかはない。

上告人らは、米国内で行なわれたコーチャンらの証人尋問は我が国の民事訴訟法上、違法な手続であると指摘しているのであって、その証人尋問に我が国の民事訴訟法が適用されるべきであると主張しているのではない。従って、その証人尋問に民事訴訟法の適用がないことを理由に上告人らの主張を排斥している原判決は上告人らの主張を「とり違えた」ものであることは明らかである。そのような判示は「本末を転倒した」誤りであることは多言するまでもない。そして、原判決が引用している第一審判決は「民事訴訟法上、原則として、総ての文書は書証として証拠能力を有し証拠調べの対象となり得るものである」などと判示している(51丁、同丁裏)のみで「コーチャンらの証人尋問は我が国の民事訴訟法上、違法な手続である」ことについては一言もふれていない。そのような第一審判決を引用している原判決は、上告人らの主張の主要部分についての判断を遺脱している、と言うほかはない。

このように、原判決は、コーチャンらの証人尋問に関する上告人らの主張について、その主張内容を「とり違えて」的外れの指摘をしているうえ、主要部分についての判断を遺脱している。その結果、原判決は、コーチャンらの証言調書の証拠能力に関し民事訴訟法の解釈適用を誤り、その証言調書の証拠能力を認める誤りを犯しているのである。コーチャン、クラッター両名の証言調書は原判決の主要な認定資料となっている。その証言調書の証拠能力について、原判決は民事訴訟法の解釈適用を誤っているのであるから、その誤りが判決の結論に影響を及ぼすことは多言するまでもない。

このように、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。この点において、原判決は、その余の上告理由の検討を待つまでもなく、当然に破棄を免れ得ない。

二、理由不備―判断の遺脱、経験則違反、採証法則の誤りなどについて<省略>

三、これまでに指摘したところによって明らかなとおり、本件の証拠構造は極めて異常な状態を呈している。<省略>

第二、国内関係<省略>

一、北星海運株式の譲渡について<省略>

二、アタカン株式の譲渡に関連する収入金額について<省略>

第三、結論<省略>

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